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『虹の番人』 = 『ミルフィーユ * de noir』 + 『ミルフィーユ
* de blanc』
スーの場合。
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私が初めて目を開けたら、そこはとても眩しくて、光以外にはまだ何も見えなかった。でもその光は、安らかで清らかで、とても心地よい。
その光にまだ目が慣れぬ内に、ぼんやりとした2つの影が私を抱き上げ、私はその2つの影によって暖かな何かにゆったりと包み込まれ、そこはとても居心地が良かった。
私が生まれた日の記憶。
私は仕事を終えると時々ここへやってくる。
生まれた時の、あの他に例えようのない感動を思い出すために。
私が生まれた場所。
私は、今は枯れてしまっているこの花から生まれた。
私を2つの腕で抱き上げ、その腕に抱いてくれたのは、イーノの先代さんだ。
彼は虹の番人としての仕事の一切を私に教えてくれた。
虹の送り方、空気の見方、星との会話。
何曜日に何色の虹を飲めばいいのか。
私が一番初めに口にしたのは黄色の虹。
ちょっと甘酸っぱくて、でもまだ生まれたばかりの私にはピリリとした刺激が強かった。
2度目に目が覚めた時、イーノの先代さん、つまり私の最初のパートナーは、私の部屋の扉の向こうからやってきた。
そしてこの部屋の空気をいっぱいに吸い込んで、ゆっくりと吐き出しながら言った。
「君の名前は?」
「スー」
何も判らなかった昨日と比べて、今日の私は色々なことを知っている気がする。
「あなたの名前は?」
「オーク」
昨日より少し縮んだように見える。
それから一週間、彼は毎朝扉を開けて私を迎えに来てくれて、そしてその間、どんどん縮んでいった。
一週間後、改めて周りの景色と彼と自分を見比べて、彼が縮んだのではなく、自分が大きくなっていたのだと知った。
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その日、彼は私の手を引きながら言った。
「スー、明日からは一人でこの扉から出ておいで。僕は向こうの部屋で待っているから」
そう言って振り返ったオークは少し元気がなくて、それでいて何だかしっかりしていたけれど、彼の目は私じゃなくて、私の背後にあるこの部屋を見ていた。
「オーク?」
彼はしばらくこの部屋を眺めた後、向き直り、私の前に立って扉を開けた。
その背中は、やっぱり昨日より小さく見えた。
オークと一緒に仕事をして、私はどんどん成長していった。
それが判ったのは、彼が毎日新しいものと出会わせてくれたから。
私が目覚めて、彼が抱き上げてくれてから、しばらくの時が流れた。
私は彼と一緒にいるのがとても楽しかったし、とても誇らしかった。
私がオークと過ごしている間、どんどん人間界は変わっていった。
人の数も、機械の数もどんどん増えていった。
空の色もどんどん濁っていった。
そして、私はそれに気づいていなかった。
気づかせてくれたのはオークだった。
ずっとむこうの方にあった三つ子の山。
前は見えたのに、今は灰色の雲が邪魔して見えなくなった。
三つ子の山の姿がどんどんかすれていってた頃、私はオークに聴いた。
「三つ子の山は動いているの?」と。
だって空気が汚れてきているなんて、その頃は思いもよらなかったんだもの。
そしたらオークはこう答えたの。
「新しいものがいつか古くなるように、全てのものは変化するんだよ」と。
最初はよく判らなくて「ふぅん」と答えたら、
「スーだって、いつだったか新しく作った洋服、しばらく経って古くなったからって取り替えちゃっただろう?」と言った。
「三つ子の山も着替えるの?」
私がそう言うと、彼は驚いたような顔をして、それから笑ってこう言った。
「そうだね。山も着替えるよ。山がまとっているのは木の葉だろう?山は毎年木の葉を着替えるんだよ」
「着替えるためにどこかに行っちゃったの?」
「山はどこにも行かないよ。ちゃんといつもそこにいる。ほら、これを使って観てごらん」
私は差し出されたいつもの仕事道具の望遠鏡をのぞいた。
確かに三つ子の山はいつもの場所にあった。
この望遠鏡は、距離など問題にしない。
「山が見えなくなったのは、別のものが変わってしまったからなんだよ」
「何が変わったの?」
「何だと思う?」
彼はいつもこうやって私に自分で考えさせる。
「判らないけど、空の色が変わってきたのは関係ある?」
私がそう言うと、彼は目を細めて笑って言った。
「最近のスーはすごいね。僕がいなくてももう大丈夫なんじゃないかい?」
その言葉に私はすっかり嬉しくなってしまったけれど、彼にいなくなられたらとても淋しい。
それに、私が彼の質問に答えられるのは、彼が導いてくれるからだ。
「オークがいなくなったら虹が送れないよ」
「そうだった、そうだった」
彼は笑っていたけれど、私が思っているほど虹おくりを彼が楽しんでいないの位は私にも判っていた。
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「何が変わってしまったの?」
「人間界だよ」
「人間界が変わると山は見えなくなるの?」
「そうだね」
「何で?」
「人間界はどんなところが変わったと思う?」
「ええと、人間の数とか?」
「それもあるね。他には?」
「…キカイとか」
「それは何を吐き出してる?」
「灰色の雲」
「そうだね。でもあれが雲なら、いつかは晴れる。空には雲がたくさん出来るだろう?だけどあれは雲じゃないんだよ。
だから空も困ってしまっている。そのせいで遠くの山が見えなくなってきているんだよ」
「灰色のせいで空が困ってるから山が見えないの?」
「そう。あの灰色はケムリって言うんだよ。ケムリはあまり良くないものなんだ。空にも、僕たちにも、もちろん人間たちにも」
「人間たちがつくってるのに?」
「そうだよ」
「何で良くないものをつくるんだろう。いいとこあるの?」
「ケムリはよくなくても、それを吐き出す機械にはいいところがたくさんあるようだよ」
「そうなんだ。どんないいとこがあるんだろう。でも良くないばっかりじゃなくて良かった!」
「…そうだね」
「ケムリはいつになったら晴れるの?」
「いつだろうね。ケムリは空に舞い上がって、ゆっくりと地上に落ちていくんだけど、次から次と機械が吐き出しているから、もう晴れることはないかもしれないね」
「そんなの困る!」
「そうだね」
「どうにかできないの?わたし、やるよ!どうすればいいの?」
「どうしたらいいんだろうね。僕にも判らないんだよ」
「オークにも判らないことがあるの?」
「そうだよ。きっといつか、スーの方が物知りになる日も来るかも知れないね」
「そうなの?それってすごい!ほんとにそんな日が来るといいな。そしたらオークにもいっぱい教えてあげるよ」
「ありがとう」
その頃の私には判らなかったけれど、どうしたらいいのか判らないと言いながら、オークはケムリをどうにかするために身体を張って頑張っていたようだ。
方法は判らないけれど。
彼の肌の色はどんどん変わっていった。
「そうだ!キカイをなくしちゃえばいいんじゃない?」
私は自分の思いつきに興奮した。けれどオークは首を振ったの。
「人間たちには必要なものなんだよ」
「でも!…そうだよね」
「スー。そんなことを考えなくても、僕たちの仕事はなんだっけ?」
「あの扉の向こうの虹の源泉を守ること」
「それから?」
「虹を送ること」
「虹を送るとどんなことが起こるんだっけ?」
「そっか!元気をあげるんだ!」
「そうだね」
「空に元気をあげてるんだ!」
「僕たちに出来るのは、必要とされたら、虹を送って元気にしてあげること。出来ることはやっているんじゃないかな」
「うん!」
こうしてオークは私の説得に成功し、私にやる気を起こさせた。
こんな才能、私は持ち合わせていただろうか。
イーノに対して、いつもいつも怒ってばっかりだ。
オークだったらって、イーノと喧嘩した後は必ず思う。
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